「部長、合宿しましょうよ!合宿!」
「やるわけねーだろ」
声を大にして提案したにもかかわらず私の提案は秒で廃案にされてしまった。
さすがクールなガイ、部長。しびれるわ。
椅子で作った寝床に寝転がったままこちらを一瞥もしないその姿、まさに部長。
そんなこんなで、ただいま帰宅心霊部は絶賛部活動中。
うん?なんだって?帰宅心霊部ってなに?だって?
いいですとも、ご説明しましょう!
帰宅心霊部とは帰宅したり心霊に関するあれやこれに首を突っ込んだりする部活で
早い話、帰宅部とオカルト研究部が合併融合した感じの特にどうしようもなく何もしない部活なのである!
活動時間は放課後!空き教室を根城にお菓子食べたり、漫画読んだり、昼寝したり!
ついでに後輩にセクハラしたり!部員は3人。部長と私と柏くん!
アッ、ちなみに柏くんは私のものだから。
あとあと、たまに生徒会の書記や美化委員のサボり魔が遊びに来るかな。
まあ、そんな感じの目標も意義もなく、のんべんだらりと時間をドブに捨てる、そんな部活。
「いいじゃないですか、全員家族不在の独り身同士なんですからお泊り会しましょうよー」
「いいんじゃないですか。やれば、2人で」
そういったのは私の可愛い後輩柏くん!一番奥の隅っこの席を指定席に本を読んでいる彼がそうだ。
みてみろ、立派なアホ毛だろう?
あふ、かわいい・・・
「ほら!柏くんもやろうって言ってますよ部長!」
「あ、俺はやりませんのであしからず」
「ふざけんなよ、柏」
部長が立った!
かわいい後輩を殴るべく重い腰を上げて部長が立った!
部長の立ち姿を見れるなんて明日は雨だ!
それに対し本を顔の前にすっと持ってきてガードの構えを取る後輩。
いけない!
「ストップ!ウエイト!ステイ!部長!私の柏くんには指一本も触れさせませんよ!
たとえ部長が相手でも私は全面抗争の構えを示します!」
相対する2人の間にスライディングで滑り込むと、これ幸いといわんばかりに後輩はすっと私の後ろへ引っ込んだ。
「・・・ちっ」
「いいじゃないですかー!部長ー!もう!合宿しましょうよー!
私、帰宅心霊部はいうならばそう!もう一つの家庭のように感じてるんですよ!アットホームすぎて!」
「狂ってんのか」
「知ってます?先輩。アットホームを売りにしてる職場は大概ブラックなんですよ」
私の後輩と部長がツンドラ過ぎる件について。
「とにかく、合宿です!レッツ!レッツ!in部長の家!」
「なんで俺んちなんだよ」
「あみだくじしたら部長が勝手に当選してきたんです」
「勝手に抽選してんじゃねえぞ」
「・・・影目部長、もう、諦めましょう。こうなった花巻先輩、泥みたいにしつこいですから
変に抵抗するとあとが怖いですよ」
「・・・ちっ」
「・・・」
こうして私は絶望しきった2人を押しのけ合宿もといお泊り会の権利を手に入れたのだった。
「そんなこんなで千文字ぐらい吹っ飛ばして花巻がきましたよ部長!一緒に寝ましょう!」
千文字体感飛んだ分をざくっと説明すると、諦めた部長の家に柏くんと押しかけ
なんやかんやお泊り会決行で、夕飯は定番にカレーで、定番にトランプして遊んで、寝るところ。
今ここ。
どんどんと目の前の扉を右手で叩く。ちなみに左手は柏くんを捕まえている。
この扉の向こうは部長の部屋。
柏くんを引きつれレッツ夜這い!しかし、部長ガン無視。
「開けてくださいよー!部長の家なんかいっぱい居るんです!隙間からめっちゃ視線感じます!
あと椅子の下とベッドの下に人が詰まりすぎて最高に草なんです!私こわくて眠れません!」
よく言うよ、とぼそっと後輩がつぶやいた気がするけど花巻全然聞こえない。
「起きてるのは分かってるんですよ!部長は夜行性の肉食獣ですもんね!何度も夜をともにしましたもんね!
部長があけてくれないのなら私はこの扉を叩き続けます!朝まで!AM5:00!!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ふむ、5秒、反応なし・・・仕方ない!ならば朝までコースといこうか。
借金取りばりの扉たたきテクを見せてやろう。ドアが勝つか私が勝つか。さあ、尋常に・・・
再び拳を握った瞬間、ドアは静かに10センチぐらいあいた。隙間から修羅の如し部長。
「オウ!イエェーーーァ!」
待ってたぜこの瞬間!その10センチの隙間を逃さずぬるっと部屋に滑り込み部長にタックルをぶちかました。
モロに受け止めて私の愛を!
そして、そのまま布団にダイブ!
弱点は首だ!絞めろ!
「今日は3人で寝ましょう?川の字で寝るとまるで家族のようですね・・・
うふふ、私と部長が夫婦で柏くんが子供なんです・・・うふふ」
「せ、先輩・・・大丈夫ですか・・・何かにとりつかれてるんですか・・・」
いつもの花巻テンポに慣れている柏くんですらドン引いているこの状況よ。
エクスタシー。
「私は、どこかで頭を打ったのかもしれません・・・だから川の字で寝ましょう?」
ふっと部長の耳に息を吹きかけるも反応はなかった。
「・・・先輩、あの・・・部長・・・白目むいてません?」
「あらま!」
うっかり鳩尾に入れてしまってようだ。ミステイク!
わざとやっただろう、だって?そうですが、何か!
「よし、抵抗する部長は落ちた!さあおいで!柏くん!川の字で眠ろう!もう怖くないよ!部長と副部長が一緒に居るからね!
どこくる?真ん中?いいですとも!カモンカモン!」
「あ・・・いや、端でいいです・・・」
「遠慮しないでいいんだよ・・・」
「えー・・・あ、ほら!真ん中は部長の特等席ですから・・・部長を挟みましょう。ええ」
うまいこと逃げられたなクソッ!
「まあ、それでもいいよ!部長って寂しがり屋のシャイボーイだからね!私たちで挟んであげようか!」
「部長が寂しがり屋て・・・」
苦笑いする後輩。そうか君は部長になる前の影目くんを知らないんだねえ。
「んー。あ!じゃあ柏くんが寝るまで私が物語を語ってあげようじゃないか!」
「はあ・・・」
「さあ、おいでおいで!目を閉じて!お姉ちゃんが語ってあげるね!」
「・・・」
「影目夜助は部長である」
そんな感じてただ始まってただ終わる
寂しがり屋で弱虫のひとりぼっち戦線。
それは、私だけが覚えている、おもしろくもなんともない、そんな話。