「ミッドナイトモブローグ」

Tシャツにサンダルという格好で真夜中に当ても無くうろうろしているなんて

不審者以外の何者でもないと自分でも思う。

俺は諸事情により真夜中に徘徊という名の散歩を行っているモブである。

モブは見た。

目の前の家の玄関先で人が揉めあっている。

真夜中に。女の声と男の声。

「早くしろって」

「やだ、お、俺は出ない!ぜったいに!出ないからあ!」

「ああん?聞こえねーなぁ?」

様子を窺っているとなんとなく状況がわかった気がするけどやっぱりわからない。

わかるのは泣きながら玄関にしがみつく男を女が引きずり出そうとしていることぐらいかな。

修羅場?誘拐?借金の夜逃げ現場確保?

いずれにせよ犯罪臭がフタをしても漏れ出してくるレベルで漂っている。

大変だ。関わりたくない。だって異様じゃん!

「おまえ、鍵っ、かかってたのに゛ぃ!」

鍵はかかってたらしい。

「めんご」

壊したらしい。

「おら、開けろや。出ろヒッキー」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃな男はヒッキー。

閉じようとするドアに足を引っ掛け無理矢理こじ開けてる橙野っぽい人はきっと橙野さん。

え?誘拐かな?

警察呼んだ方がよくない?

あ、スマホ無い。家か。

うーん、もう少し様子を見てもいいかもしれない。

今のとこ身体的被害出てないみたいだし。そうだ!手が出たら電話まで走ろう。

よし、そうしよう。

「ふんぬ!!」

とか言ったそばからボディブロー。

入った。

「観念しろよ、ヒッキー」

大変、手出ちゃった。

うわあ。どうしよ、殴ったよびっくり。

そうこうしてる間にヒッキー捕まっちゃった。

めんごヒッキー。

「か、帰る。家帰る・・・」

「泣き止みなよ、まだ5メートルしか離れてないんだから」

なんかヒッキー生まれたての小鹿みたいにガクガク震えてる。

息荒いし。橙野さんが息しろとか言いながら背中さすってる。

けど、ひっひっふーはなんか違う。

どうやらヒッキーは家から出たら死ぬ生き物らしい。

無理矢理引きずり出されたヒッキーは橙野さんに手を引かれ家から5メートル離れた。

家から離れて5メートル。大泣きしていたヒッキーはもう助けて以外の言葉を発しなくなった。

それでも橙野さんは止まらない。

なんだろう、とっても人事なのにはらはらする。

ヒッキーしっかりしろ。

ヒッキー!!

あ、お巡りさん。

ちょうど見回りしてたお巡りさんがヒッキーの助けてを聞きつけて駆けつけてくれたようだ。

よかったな、ヒッキー。お家に帰れるぞ!

「君、大丈夫かい。どうしたの」

「・・・ひゃぃ」

駄目だった。

いろいろ駄目だった。

対人スキルガッタガタじゃねーか。

もはやまともに発音もできない。なに言ってるのかよくわからん。

助けを呼んだ張本人が助けてくれる第三者の登場にめっちゃ怯えるという謎の展開。

なんという事態。

もう一度声をかけられるとびくっと大きく身体を揺らし

橙野さんにびたっとくっついて顔面蒼白マナーモードになってしまった。

お前、ビビリすぎだろ。

「大丈夫です。な?ヒッキー、大丈夫だよな?うんって言えオラ」

対する橙野さんは一向に動じない。さすが橙野さん。痺れる!憧れる!

本当に大丈夫かと心配するお巡りさんに大丈夫、問題ないの一点張り。

これぞごり押し。

「・・・ほんとに大丈夫?」

すっと親指を立てる橙野さん。

一方のヒッキーは橙野さんの腰にしがみついて無言の篭城を決め込んでる。

なにやってんだヒッキー、お前。

そのうち何かを察したのか半笑いのお巡りさんはパトロールに戻っていった。

今日一番の被害者はあの人じゃないかな。

「あちゃー、もう機嫌直せよ。ヒッキー。ほら、おんぶしてやるから」

「・・・」

「・・・駄目か。今日は駄目な日だったかー」

駄目な日てなに。

ヒッキー、本気で動かなくなっちゃった。

なんか顔面崩壊するほど泣いてるし。なんで泣いてるのかわかんないけど飴でもあげたくなった。

ため息をついた橙野さんがひょいっと軽いものを持ち上げるようにヒッキーを担ぎ上げて歩き始める。

いつまでもヒッキーは泣いてた。

ああ、橙野さんも大変だな。いや、知らない人だけど。

これでモブが見た真夜中のお話は終わり。

あ、モブがはらはらしながら見守ったり、ちょっとだけ仲良くなったりするのはまた別のお話。

じゃ、続きはwebってことで!

これはモブである俺が見たお話。

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