「あなたの嫌いと好きの色」

「お前の目の色が嫌いだ」

そいつはいつも、僕の目をじっと見てそう言うのだ

「嫌な色だな、その色」

嫌なら見なければいいのに

嫌だ、嫌いだと言っては覗き込むくせに

一度だけ、どうして嫌いなのかと聞いてみたことがある

するとそいつはこう答えた

「大嫌いなあいつと同じ目の色だから」

いい迷惑だ

それって僕関係ないじゃないか

なんだいそれ

一言、言ってやろうかと思ったけれど思うだけに留めておいた

結局のところ僕は目の前のそいつに口で勝つことはできないのだから

黙り込んだ僕を見てそいつはもう一度嫌いだと言った

「もういいだろ、子供はもう寝る時間だぜ。早く寝ちまえ」

しぶしぶベッドにもぐりこみ窓の外に視線を向けると大きな月が出ていた

「寝ろって」

「今日はなんの話をしてくれるの」

「今日はなしだ」

「・・・ケチ」

カーテン閉めろと声がかかる

僕は無視を決め込んだ

ささやかな抵抗のつもりだった

だったのに

「くそ生意気になりやがって。これだからクソガキは嫌いなんだ」

うるさいなあ

「・・・」

そういえば

思えば初めて会ったときもそいつが最初に見ていたのは目だった気がする

嫌いならどうしてそんな目で見続けるのだろう

もしかしたら好きだとか嫌いだとかは僕が思ってるより複雑でめんどくさいのかもしれない

難しいのは苦手だ、考えるのも好きじゃない

「・・・僕は僕だよ」

「あん?それがどうした」

僕と同じ目の色をした誰かはどんな姿形をしているのだろう

そんなつまらない事に思いをはせながら目を閉じた

うつらうつらし始め意識も沈みかけたところで誰かが肩の辺りをとんとんと一定のリズムで叩く

寝れない子供によくやるアレだ

変な話だ

クソガキは嫌いだと今さっき言ったばかりなのに

嫌いならやんなきゃいいのに

けど、まあ

悪い気はしなかったので僕はおとなしく寝ることにした

その日見た夢は覚えてない

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